妻が妊娠中に有爵者が死亡した場合の相続 - abeyance 
以前に、abeyanceという概念をさらっと扱いました。イングランド貴族における女性の爵位相続権に関する件で、女性の姉妹が共同相続人となる場合、爵位はabeyance、つまり現有者不存在という状況になり、一時的に爵位が停止状態になるというものでした。
上記のabeyanceはいずれもう少し考察してみますが、ここでもう一つabeyanceが発生するケースを見てみます。
たとえば、X男爵の夫人が妊娠中に、男爵自身が逝去したとします。この時、もし男爵に男子がいるならば、男爵の逝去の時点において問答無用でその長男が襲爵します。では、もし子供がいない場合、女子はいるが男子はいない場合はどうなるのでしょうか。
この場合、夫人が出産するまで、abeyanceとなります。というのも、男子が産まれるか、女子が産まれるかによって、襲爵する人が変わってくるからです。
もちろん残念ながら流産・死産という結果もあります。
いくつかのパターンを考えてみます。
男爵位がLPの規定によって女子への相続を認める場合 
Letters Patentのremainderは大抵女子への相続を認めていませんが、何らかの理由で認めている場合があります。LPはきちんとした法定文書なので、どういう順序で相続するかきっちり書いてあります。したがって相続はそれに従います。
女子が産まれた場合 
こういった貴族の相続法は'heir general'ですから、共同相続人の概念がありません。したがって、女子がいない場合、産まれてきた女子が襲爵し、既に女子がいる場合、姉の方が妹の誕生後直ちに襲爵します。
残念ながら、流産・死産と言うこともあり得ます。その場合は、それが判明した時点で、相続が行われるでしょう。
実際の例 
貴族の爵位において実際に起こった例としては、1975年の
第六代伯爵は妊娠中の夫人を残して亡くなったので、Earl Cowleyの爵位はabeyanceとなりました。生まれてきた子が女子でした。残念ながらこの爵位は女子が継げないものだったので、その子は継げず、六代目の叔父に当たる人物が第七代伯爵となりました。
君主の例 
こういったabeyanceおよび
たとえば、スペイン王位の例があります。アルフォンソ十二世は1885年11月に崩御なさいました。そのとき、女子を二人儲けていましたが、男子はいませんでした。しかしマリア・クリスティネ王妃が妊娠中だったので、王位はabeyanceとなりました。1886年5月に男子が誕生し、その子はその生まれた瞬間に国王となりました。これがアルフォンソ13世です。注意すべきは、こういう場合国王となるのは生まれた瞬間であり、決して胎内にいるときは国王ではない、ということです。決して遡及して適用されません。これは爵位も同じです。
雑感 
出産まで待つというのは、昔は胎児の性別がわからなかったからでしょう。一部の陰陽師は脈でわかったとか言う話もありますが。確かに、出産まで待たずに相続が始まるなら、ある意味より暗殺が横行したような気もします。
しかし、奥方の心労は並大抵のことではないでしょう。下手したら断絶の憂き目にもなることですし。男女の性別は本人の預かり知らぬ事とはいえ、世間はそんなことを気にしないでしょうし。日本でも「変成男子の法」という胎児の性別を女子から男子へと変えると称する法がありました。冷泉天皇はこの例だとか。だから虚弱体質や狂気の傾向があったのだとか昔は言われていたようです。…大変なことです。
| 初版公開日 | 2005-05-03T01:37:00+09:00 |
| 最終更新日 | 2009-12-05T14:15:19+09:00 |
Tag: 称号考察 相続法 英国貴族 イングランド貴族 スコットランド貴族
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