『地球の歩き方』の不満点をあえて列挙してみる 
『京都新聞』平成16年6月11日付夕刊4面に「トラベルグッズはモノ語る 12: ガイドブック 2」というコラムがあり、1970年代に見られたガイドブックの多様化について述べられていた。そのなかで七十九年秋若者の海外旅行観を変える、画期的なガイドブックが登場した
としてあげられているのがダイアモンド・ビッグ社の『地球の歩き方』シリーズ。
皆さんもご存じの通り、読者投稿を中心とした多量の情報で構成されているのが同シリーズで、まぁ、定番のガイドブックであるといえる。初めての海外旅行に行った時、大いに参考したのが同シリーズのサンフランシスコ編だったし、英国留学時には同シリーズのイギリス編と『地球の暮らし方』のイギリス編、パリ旅行時にはパリ編を買ったものである。
しかしながら、結構不満点もある。まぁ、良い所もあれば悪い所もあるのは製品の常であるし、そもそもこういうガイドブックみたいなモノは好き嫌いの要素も多いのだが、まぁ、私が思う所と言うことで。今思いつく分をリストアップしてみよう。
- 投稿情報をちゃんと確認しているのか不安
- 豆知識というか蘊蓄部分が結構いい加減
- 地図は最新か
- 地名や用語の日本語化がたまに変
- 情報が基本的に女性からの視点なので男にはわかりにくい点もある
まず、最初の点は結構重要。読者投稿で成り立っているような本だから、当然チェックはしているのだろうけど、たまに「んっ?」と思う点もある。もちろん発行した時点で運賃等の情報は古くなっていることもある。例えば、イギリス編2000-2001版p.428に「ホップを使わないビール」と題された次のような投稿がある(あえて投稿者の氏名を記さない):
なんとホップの代わりにヒースの花を使っている。スコットランドでは4000年前から伝わる酒だそうで(編集部注・資料で確認できなかったので原文のままです).... [sic]
このヒース酒というのはおそらくHeather Aleのことだろう。たしかに4000年ぐらいの歴史があるかもしれない。というのは、これはピクト人が紀元前2000年から作っていたとされるものであるから(存在を否定する向きも結構ある)。 伝説によるとスコット族がピクト人を征服したときに、その族長の死とともにその製造法も消え去ったとのこと。とはいえ、ピクト人がスコット族に併合され、スコットランドが戍 1000 ?立した後も、Heather Aleが製造され続けていたという話もある。仮に伝説の通りならば、このHeather Aleはそのレシピとは別のものということになる。
このHeather Aleはその後ハイランド文化の一部になったのだが、併合法の後にホップかモルト以外のAleの製造は禁止されたために衰退した。現在のHeather Aleはグラスゴーの醸造家が島嶼部に伝わっていたレシピから試行錯誤の末に復元したものである。
だから、4000年の歴史があるともいえるし、ないともいえる。ややこしい。別に投稿者のことをどやこや言うつもりはないのだが、あんな変な注を付けるぐらいならば載せない方がよい、ということを私は言いたい。編集部が確認できないような情報を載せる姿勢がガイドブックとして、私には疑問だ。
二番目の蘊蓄部分。このシリーズ全体がそうだけれど、このイギリス編に関して言えば、イングランド、ウェイルズ、スコットランド、北アイルランドといったセクションの各扉をはじめとして、あちこちにやたら目ったら豆知識や蘊蓄がある。私は別にこれらがガイドブックには不要だ、といっているわけではない。こういった編集方針があいかわらずの『地球の歩き方』特有の説教調・指導調が満載
という批評にもつながるのだろうが、私はそこまでは思っていない。ただ、蘊蓄満載の割には、結構その蘊蓄がいい加減なのだ。p.343のスコットランドの反イングランド感情について書いたコラムをみてみよう:
彼女[エリザベス女王]はエリザベス2世と呼ばれるが、スコットランドにはエリザベス1世は存在しなかったのだから、正式にはエリザベス1世スコットランド女王になるべきなのだが、事実は違う。
一瞬なるほど、と思ってしまう文だし、私もかつてはそう思っていないのだが、王室のことを勉強してみると、この意見がいかに不見識かがわかる。なにもエリザベス二世女王陛下がこの件に関してケチをつけられる謂われはない。というのも、エリザベス二世は
これには疑問を覚える人もいるかもしれない。実際に世界中の多くの人間が女王のことを'Queen of England'といっているし、実際に疑いもなくそう思っているからだ。しかし、これは現連合王国が、イングランド王国 → グレート・ブリテン王国 → 連合王国として発展してきた経緯をふまえた口語上の慣用表現であり、公式なものでも正式なものでもないのである。したがって、エリザベス二世はスコットランドやイングランドという概念の上位概念である連合王国の女王であるから、「スコットランドでは一世となるべきなのに、イングランドでは二世だから、スコットランドでも二世と呼ばれている」というのは見当違いな批判である。
国王の代数の付けについては、ここでは詳しく書かないが、仮にロバートという王子がいて、王位を継承するとなると、イングランド・グレートブリテン・連合王国にロバートという国王はいなかったものの、スコットランドには三世までいたので、おそらくロバート四世となるだろう。
先に書いたとおり、一般の英国人でもわかっていないような話なので、街の蘊蓄兄ちゃんが蘊蓄で言うのなら問題ないだろう。しかし、こんな影響力のある本で蘊蓄を語るならその筋の専門家にでも聞いてから書いてほしいものだ。英語がわかる人ならネットにいくらでも転がっている話なのだから。
それと、p.325の「ひと口ウェールズ語講座」でまるで、'll'が[x]音であるかのように書いてあるが、私の知るところでは、ドイツ語に近い[x]音は'ch'である。'll'は英語の'L'の発音をするときの舌の形で上の歯の裏に舌をつけずその両側から空気を出しながら[s]っぽい音を出す。
ほかにも怪しい蘊蓄はいっぱいありそうだが、省略。
三番目と四番目に関しては私がこだわっているだけだろうけど。まず、pp.306-307のウェイルズの地図!この地図では州割りが、Powys, Dyfed, Gwynedd, Clwyd等々になっていますが、この州割りは1996年にPowys, Carmarthenshire, Pembrokeshire, Ceredigion, Gwynedd, Conwy, Denbighshire...等々の州割りに変わりました。Data Walesの1974-1996までの州割りと現在の州割りの地図を見比べるとわかります。細かい話ですが、p.370では'GWYNEDD'が'GWYNEDO'になっています。上では修正してますが。
おそらく、参考にした地図が古いんでしょう。もっとも、ガイドブックとしては感心できない話ですが、英国の会社等からの手紙では、そのデータベースが古いのか、CeredigionのかわりにDyfedで来たりもします。
地名や用語に関してですが、これは、どう訳すか執筆陣に統一性がない、という話です。たとえば、教会の名前によく不統一があります。ここで教会を持ち出すのには、どこにでもあるからですが。'St Mary's Church'というよくありそうな名前の教会を考えてみましょう。
p.320のConwy(←シーフード料理が美味しい所)の地図では聖メアリーズ教会
となっているにも関わらず、p.322のBangorの地図では聖メリーズ教会
となっており、p.198のOxfordの地図およびp.201の解説では聖メアリ教会
となっています。
いや、別にいいんです。'Mary's'をメアリーズと読もうが、メリーズと読もうが、's'を抜いてメアリとしとくか、どれでもいいんですが、せっかくだから統一してください。大概の所では、メアリーズになっているのに所々ほころびがでている。
それと、聖母マリアのような教会の名前になりやすい人の場合、宗派もいろいろあったりしますから、同じ都市で何カ所も名前が捧げられていることがあります。なので、そういう所では、なるだけ正式な名前を書いておいていてくれないと、けっこう迷います。(しかも、Maryという名の聖人は聖母のほかにもいろいろいます。)
たとえば、p.247のIpswichの地図で聖メアリー教会
となっているのは、St Mary le Towerという名の教会のこと。The Suffork Churches SiteのThe Churches of IpswichにはSt Maryの名を冠した教会が複数載っています(マグダラの人のも含めて)。
まぁ、こんな話は細かすぎますね。一応このサイトは名前にこだわる所ですので、あえて指摘しています。
用語の徹底というのは、例えば、Victorianをヴィクトリア調と訳していたりするにもかかわらず、Georgianをジョージアン調と訳していたりすること。ヴィクトリアン調というのも見かけた気もしますが、それは『地球の暮らし方』イギリス編の方だったか。これも結構いい加減なことが書いてある箇所がある
最後のは……うーん、今回は省略しときます。本のターゲットとしては女性でしょうから、間違ってはいないでしょうし。
| 初版公開日 | 2004-06-16T23:20:00+09:00 |
| 最終更新日 | 2009-12-05T14:15:23+09:00 |

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