[称号・名/称号]

ベッカム夫人のLadyの使い方に関するInternet Jouneyのツッコミへのツッコミ / 2006-11-05 (日)

Internet JourneyのUK Todayの記事「11/3 イングランド代表チーム元キャプテン、デヴィッド・ベッカムに「Sir」の称号!?」で、デイヴィッド・ベッカムにたいするないとのじゅしょにかんする噂が取り上げられていました。ネタ元はDaily Mailの記事'More knighthood speculation for Beckham.'と思われる。

さて、この記事中に注目すべき点がいくつかある。

Knightのことを括弧して子爵と書いてあるのがわかる。一般的に子爵の訳語にあてられるのはViscountである。しかし、この場合は誤訳もしくは勘違いというよりも、Knightの訳とされることがしばしばある士爵の誤変換であろう。この士爵という訳語は、公爵から准男爵と続く「~爵」というパターンを踏襲させるための訳語であろう。ただし、騎士やナイト爵という訳語に比べると、不便な訳であるためか見る機会は少ないように思われる。公爵と侯爵が同音で混乱を来すところに、子爵と士爵も同音となれば余計にややこしくなるからだ。

しかし、この記事で最も問題なのはベッカム夫人の発言に対するツッコミである。

記事でも書かれているとおりベッカム夫人は「レイディ・ヴィクトリアと呼ばれることになるなんて信じられなーい」と舞い上がっている。

これに対してInternet Journeyは

※「レイディ」の称号をファースト・ネームと共に用いるのは世襲貴族の子女のみであり、一代貴族であるナイトの夫人の場合は「レイディ・ベッカム」というように、苗字とともに用いるので、ヴィクトリア夫人の引用は誤り。

と文末中で突っ込んでいる。

確かにベッカム夫人は夫がナイトになってもレイディ・ヴィクトリアにはならず、レイディ・ベッカムとなる。これは英国人でもよく犯す間違いである。

しかしながらこのツッコミは根本的に誤解を生む要素を多分にはらんでいる。

この書き方では「世襲貴族」と「一代貴族」という分け方で'Lady+Forename (Surname)'と'Lady+Surname'の区別の説明をしようとしている。しかしこれがそもそも間違いである。

そもそもナイトは「貴族」ではない。peerという意味でもnobleという意味でも英国法では貴族ではない。

さらに「一代貴族」という日本語は'life peer'という用語の訳として通常用いられるが、この用語はKnightを指すものではない。あくまで所謂五等爵の爵位であるにもかかわらず「世襲ではなく一代限り」という制限規定がある爵位・貴族を指す語である。

このことを念頭に置いた上で、上記の記述を直すと以下のようになる。

  1. 'Lady+Forename (Surname)'という形をとるのは、世襲貴族・一代貴族に関わらず公爵・侯爵・伯爵の女子のみである。
  2. 世襲であっても子爵・男爵の女子は'Lady+Forename'ではなく'The Honnourable Forename Surname'である。
  3. 一代貴族として授爵されても、公爵・侯爵・伯爵であればその女子は'Lady+Forename (Surname)'と称される。(一代貴族はその相続に関して「一代限り」という制限を受けるが、儀礼称号に関しては通常の世襲貴族のそれと何ら変わることがない。)
  4. 一代貴族は現代ではほとんど男爵であるが、伯爵の可能性もあり得る。もちろん歴史上は公爵の一代貴族もあった。
  5. 'Lady+Surname'となるのは准男爵夫人(つまりこれは世襲の称号)及びナイト夫人である。

所謂五等爵でも一部の伯爵及び多くの子爵・男爵の場合爵位が姓となっているものがあり、その場合は'Lady+Surname'となるが、これは有る意味また別の話である。

このように、Internet Journeyのツッコミはツッコミとして不完全である。Daily Mailの原文では、Kristina Pedersen女史がしっかり'...as only the daughters of dukes, marquesses and earls are called by their first names.'と限定している。おそらくInternet Journey編集部もしくはUK Todayの記事を書いている記者が、より分かりやすくしようとして失敗したものであろう。称号に関する話題に於いてよくある話ではある。

17/11/2006:Internet Journeyのドメイン変更にあわせて本文中のアンカーを修正しました。

1: 西京子 (2006/11/07 11:02)
dzlfox様

「一代貴族はその相続に関して「一代限り」という制限を受けるが、儀礼称号に関しては通常の世襲貴族のそれと何ら変わることがない。」
一代男爵の夫人、子女の敬称なんですが、有爵者が逝去した後も、以前と同様であると考えてよいのでしょうか。
長男氏も、当主なのに、死ぬまで「The Honorable・・・」と呼ばれるんでしょうか。
(息子さんから「パパはThe Honなのに僕はどうして違うの?」「えっと・・・」みたいになるのかな?)

「この士爵という訳語は、公爵から準男爵と続く「~爵」というパターンを踏襲させるための訳語であろう。」
「士爵」は明治政府でも、検討されたんですが、結局は・・・
「勲爵士」と訳す方もいますよね、こっちの方が格好良いかな。
2: dzlfox (2006/11/07 22:58)
西京子様お久しぶりです。
>一代男爵の夫人、子女の敬称なんですが、有爵者が逝去した後も、以前と同様であると考えてよいのでしょうか。

基本的にはその通りです。
ただし、夫人は未亡人となりますので、The Dowager Lady XやN, Lady Xと称されるかもしれませんが、世襲ではないので、死別前と同じくThe Lady Xと呼ばれ続ける方がふつうでしょう。
(次代の夫人との区別をつけるためにDowagerをつけたりしますので)

>長男氏も、当主なのに、死ぬまで「The Honorable・・・」と呼ばれるんでしょうか。

これはむしろ発想を転換しましょう。
儀礼称号というのは、当主か否かではなく、爵位保有者との続柄から決まるものです。
この場合、当主となっても爵位保有者となっていませんから、儀礼称号も変わらないわけです。
3: dzlfox (2006/11/07 23:01)
>(息子さんから「パパはThe Honなのに僕はどうして違うの?」「えっと・・・」みたいになるのかな?)

The Honourable (英国綴りではuが入ることに注意)は基本的に封書の宛書か出席者リストみたいなリストもの位にしか用いられません。
口語では用いることなく、Mrを使います。
なので、papaの説明責任は少なくなるんじゃないでしょうか(笑)
まぁ、宛書きでいえば、Honの息子さんにはちゃんとEsqが語尾についてくるとは思いますが。
(ビジネスレター等では庶民にもふつうにEsqはつきますが)
4: dzlfox (2006/11/07 23:03)
>「勲爵士」と訳す方もいますよね、こっちの方が格好良いかな。

ああ、たしかに勲爵士もありましたねぇ。准勲爵士とったような気がしますが、あれは何だったか・・・
5: もつ (2006/11/08 10:42)
こんにちは。ずいぶん久しぶりの記事で……お忙しいのでしょうか。
今回は、質問はないのですが、急いで書かれたのか、

>記事でも書かれているとおりベッカム夫人は「レイディ・ベッカムと呼ばれることになるなんて信じられなーい」と舞い上がっている。

とベッカム夫人の言葉の引用が「レイディ・ベッカム」となり、
特に問題なくなってしまってます。
6: dzlfox (2006/11/09 00:12)
もつ様
いつもありがとうございます。
ご期待になかなかお応えできず心苦しいのですが、最近ちょっと多忙です。
今も東京エリアに出張中です。
まぁ、書きかけてた記事が収集つかなくなって、ちょっと手の付け所がわからなくなったというのもありますが。
(これは大幅に省略し、メモ書きにするよていです。)

ベッカム夫人の台詞のご指摘ありがとうございました。
Lady Victoriaなんてあり得ないのになぁ、と思いつつ書いていたら間違えてしまったようです。わははは。

では
7: Lucius (2006/11/10 03:03) lucius_aquarius_magister(あっとまーく)yahoo.co.jp
お久しぶりです。これって、前にあった'Princess Diana'とよく似ていますね。

ところで、儀礼称号は一代貴族でも同様という点ですが、一代貴族の爵位がDuchess of Portsmouth, Countess of Fareham and Baroness Petersfieldの場合、長男やそのまた長男は、Earl of FarehamやBaroness Petersfieldを使えたんでしょうか?
8: Lucius (2006/11/10 06:23)
×Baroness→○Baron
9: dzlfox (2006/11/11 01:26)
Lucius様。
大変ご無沙汰しています。

さて、Duchess of Portsmouthの件。
可能性としてはYES;
歴史的にはNOとなります。

なぜか、簡単に言えば、Charles Fitzroy (aka Lennox)は庶出子だったからで、基本的に庶出子は儀礼称号で称されません。
(もちろん父親が父親なので社会的になにがしかの称号で呼ばれるんでしょうが)

もし仮に、DuchessがCharlesIIと結婚していれば、そもそも父親との関係のほうが格が上位となりますので、母方から儀礼称号を無理に引っ張る必要が特にありません(宣言して名乗ることは可能ですが)。
他の男性と結婚していても準正されるわけではないので、結局立場は変わりません。
10: dzlfox (2006/11/11 01:26)
歴史的なことは置いておいて、たまたま授爵された女性がそのような爵位であった場合、むろんその儀礼称号は使えます。
一代貴族なので惑わされがちですが、女性へ継承することはまれでも、男性へ継承することは普通なので、女性→男性という継承順位はごく普通です。
その継承自体は行われないが、儀礼称号はそのまま、ということが要旨なので、そのような例はあり得るわけです。

Baroness Thatcherのご長男の現Sir Markが准男爵位を継ぐ前は、母方からThe Honでした。
11: Lucius (2006/11/11 12:26)
なるほど。考えてみれば、有爵者本人が亡くなったから遺族の呼称は格下げというのは、儀礼としてはおかしいですもんね。
12: 西京子 (2006/11/13 20:52)
dzlfox様

詳細なご教授ありがとうございます。

「これはむしろ発想を転換しましょう。
儀礼称号というのは、当主か否かではなく、爵位保有者との続柄から決まるものです。」
成る程、あくまで儀礼称号ですもんね。

「The Honourable (英国綴りではuが入ることに注意)は基本的に封書の宛書か出席者リストみたいなリストもの位にしか用いられません。
口語では用いることなく、Mrを使います。
なので、papaの説明責任は少なくなるんじゃないでしょうか(笑)
まぁ、宛書きでいえば、Honの息子さんにはちゃんとEsqが語尾についてくるとは思いますが。
(ビジネスレター等では庶民にもふつうにEsqはつきますが)」
ここら辺は、基礎知識からして全くないので、勉強になりました。
Honも口語で使わないのですね、勿体無い(オイ)
13: (1970/01/01 09:00)
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