Internet JourneyのUK Todayの記事「11/3 イングランド代表チーム元キャプテン、デヴィッド・ベッカムに「Sir」の称号!?」で、デイヴィッド・ベッカムにたいするないとのじゅしょにかんする噂が取り上げられていました。ネタ元はDaily Mailの記事'More knighthood speculation for Beckham.'と思われる。
さて、この記事中に注目すべき点がいくつかある。
Knightのことを括弧して子爵と書いてあるのがわかる。一般的に子爵の訳語にあてられるのはViscountである。しかし、この場合は誤訳もしくは勘違いというよりも、Knightの訳とされることがしばしばある士爵の誤変換であろう。この士爵という訳語は、公爵から准男爵と続く「~爵」というパターンを踏襲させるための訳語であろう。ただし、騎士やナイト爵という訳語に比べると、不便な訳であるためか見る機会は少ないように思われる。公爵と侯爵が同音で混乱を来すところに、子爵と士爵も同音となれば余計にややこしくなるからだ。
しかし、この記事で最も問題なのはベッカム夫人の発言に対するツッコミである。
記事でも書かれているとおりベッカム夫人は「レイディ・ヴィクトリアと呼ばれることになるなんて信じられなーい」
と舞い上がっている。
これに対してInternet Journeyは
※「レイディ」の称号をファースト・ネームと共に用いるのは世襲貴族の子女のみであり、一代貴族であるナイトの夫人の場合は「レイディ・ベッカム」というように、苗字とともに用いるので、ヴィクトリア夫人の引用は誤り。
と文末中で突っ込んでいる。
確かにベッカム夫人は夫がナイトになってもレイディ・ヴィクトリアにはならず、レイディ・ベッカムとなる。これは英国人でもよく犯す間違いである。
しかしながらこのツッコミは根本的に誤解を生む要素を多分にはらんでいる。
この書き方では「世襲貴族」と「一代貴族」という分け方で'Lady+Forename (Surname)'と'Lady+Surname'の区別の説明をしようとしている。しかしこれがそもそも間違いである。
そもそもナイトは「貴族」ではない。peerという意味でもnobleという意味でも英国法では貴族ではない。
さらに「一代貴族」という日本語は'life peer'という用語の訳として通常用いられるが、この用語はKnightを指すものではない。あくまで所謂五等爵の爵位であるにもかかわらず「世襲ではなく一代限り」という制限規定がある爵位・貴族を指す語である。
このことを念頭に置いた上で、上記の記述を直すと以下のようになる。
- 'Lady+Forename (Surname)'という形をとるのは、世襲貴族・一代貴族に関わらず公爵・侯爵・伯爵の女子のみである。
- 世襲であっても子爵・男爵の女子は'Lady+Forename'ではなく'The Honnourable Forename Surname'である。
- 一代貴族として授爵されても、公爵・侯爵・伯爵であればその女子は'Lady+Forename (Surname)'と称される。(一代貴族はその相続に関して「一代限り」という制限を受けるが、儀礼称号に関しては通常の世襲貴族のそれと何ら変わることがない。)
- 一代貴族は現代ではほとんど男爵であるが、伯爵の可能性もあり得る。もちろん歴史上は公爵の一代貴族もあった。
- 'Lady+Surname'となるのは准男爵夫人(つまりこれは世襲の称号)及びナイト夫人である。
所謂五等爵でも一部の伯爵及び多くの子爵・男爵の場合爵位が姓となっているものがあり、その場合は'Lady+Surname'となるが、これは有る意味また別の話である。
このように、Internet Journeyのツッコミはツッコミとして不完全である。Daily Mailの原文では、Kristina Pedersen女史がしっかり'...as only the daughters of dukes, marquesses and earls are called by their first names.'
と限定している。おそらくInternet Journey編集部もしくはUK Todayの記事を書いている記者が、より分かりやすくしようとして失敗したものであろう。称号に関する話題に於いてよくある話ではある。
17/11/2006:Internet Journeyのドメイン変更にあわせて本文中のアンカーを修正しました。