[称号・名/称号]

スコットランドのMaster / 2006-05-12 (金)

以前スコットランド貴族の説明をしたとき、スコットランド法では第5位の貴族はBaronではなくLord of Parliamentである、ということでした。これはスコットランドの制度がイングランドの制度と異なる一例ですが、このMasterという称号もスコットランド特有の称号です。

ここで注意ですが、イングランドでもMaster Randolphと言うような使い方をしますが、これは「ランドルフ坊ちゃま」とか「ランドルフ様」とかいう言い方で、たいてい使用人が(たしか)13/4歳までのお坊ちゃんに対して用いる呼び方です。ここでのものとは違います。

スコットランド法のMasterという称号はViscountもしくはLord of Parliamentの継嗣が帯びる称号です。イングランド~連合王国貴族の場合、ViscountおよびBaronの継嗣の儀礼称号は:

  • The Honourable Forename + Surname

となりますが、スコットランド貴族の場合:

  • The Maste of X

となります。ここで'X'はその人が継ぐ予定の称号となります。したがって:

  • 13th Viscount of Oxfurdの継嗣はThe Master of Oxfurd
  • 22nd Lord Grayの継嗣はThe Master of Gray
  • 14th Lord Napier of Merchistounの場合はThe Master of Napier

の様になります。

ここで注意すべき点が何点かあります。

まずは、通常と同じくMasterは儀礼称号のViscount/Lordの継嗣の称号ともなること。したがって、'Earl of A'の継嗣で'Lord B'の儀礼称号を持つ人物の継嗣もMasterとなり、そのとき'Master of B'となります。

もし仮にDuke/Marquess/Earlがそれより下位の副次的称号を有していない場合、もちろんMasterがその継嗣の称号となります。(現在記憶が正しければEarlで2例あります。)

次に注目すべきなのは、この称号を帯びるのはheir apparentでもheir presumptiveでも構わないということです。したがって、女子が継嗣でもMistressという女性形で帯びることになります。

女子が継嗣だとその後に男子、つまりheir apparentが生まれる可能性があるわけですが、その場合はその時点でMistressの称号を失います。

手元にある2002年7月6日現在での資料においてMistressの称号を有していたのは以下の3例です:

  • 30th Countess of Marの継嗣であるMistress of Mar
  • 12th Earl of Newburghの継嗣であるMistress of Newburgh
  • 21st Lady of Saltoun of Abernethyの継嗣であるMistress of Saltoun

ただし、'Mistress'という語があまり良くないイメージがあるので(愛人という意味など)現代では使わない傾向があります。たとえば、Mistress of SaltounはかわりにThe Hon. Katharine Fraserと称しています。

また、これはややこしいのですが、このMasterという称号は儀礼称号ではない、ということです。しばしば儀礼称号として言及されますが不正確なようです。 つまり、Masterは継嗣という自らの身分によって有する称号で、実際に称号を持っている人物との関係によって社会的に称されている称号ではない、ということです。

ただし、儀礼貴族の継嗣としてのMasterは儀礼称号的な扱いのようです。

最後に、スコットランド特有の氏族制に関係する事情があります。

上記のLord Napier of Merchistounのように追加の領地名のある場合に注目しましょう。イングランドなどの場合、これは同じ名字を持つ人を区別する為の一種の方便のようなものですが、スコットランドでは事情が違います。

スコットランドには Lord Lyon King of Armsによって承認された氏族長«Chief»がいます。氏族長は(どのように承認されているかにもよるが)その姓および紋章の長です。したがって、その姓を限定的に名乗ることができるのは氏族長だけです。

たとえば、Debrett'sでも例をとっている(p. 65) Lord Balfour of Burleighという称号を考えてみましょう。Balfourgが姓、Burleighが地名です。

このときその継嗣はMaster of Balfourとはなりません。上記のLord Napier of Merchistounの場合はMaster of Napierであるのに、何故でしょうか。

実は、Lord Napier of Merchistounは氏族長(正確にはChief of the Name and Arms of Napier)であるのに対し、Lord Balfour of Burleighは氏族長ではなくBalfour一族の分家にすぎないからです。

この場合、もし、Lord Balfour of Burleighの継嗣がMaster of Balfourと名乗ると、これは限定的にBalfourを使ってしまうことになります。あくまで姓を限定的に用いるのは氏族長(およびその継嗣)にあるのです。したがって、この場合、地名であるBurleighを用いて、Master of Burleighと呼ばれます。

これは姓に追加領地名を伴うLordでも同じで、すなわち、Lord Balfour of Burleighを略す場合はLord Balfourではなく、Lord Burleighであることに注意せねばなりません。

これがスコットランド法における規則となっています。

ただし、この規則は連合王国の貴族制度でもしつこく生き残っており、スコットランドで氏族長が登録されている姓を持つ貴族が封じられるとき、彼が氏族長でないのなら必ず追加領地名がつきます。彼がその姓を限定的に用いることができないからです。

呼称に関してはいずれ貴族の呼称について扱う際にともに扱いたいと思います。

1: もつ (2006/05/12 02:13)
今回のお話も(前回のフランスの話も)面白いですね。
氏族長というのは、具体的に今はどんな権能をもっている
のかよくわからなかったのですが、一つイメージがつかめたよ
うに思います(もちろんまだまだ知らないことだらけでしょうが)。
一つ記事が増えるとさらに書いていただきたいことが増え
るという(^_^;
2: dzlfox (2006/05/12 16:54)
もつ様、ご無沙汰です。
スコットランドのClanについてはもう少しきちっと考えてみなければならないのでしょうが、私も言うほど詳しくないので、もう少し調べてから扱いたいと思います。
#おそらく、紋章学から入っている人のほうがよく知っているのではないでしょうか。
3: 西京子 (2006/05/12 20:44)
dzlfoxさま。

Masterなる称号の存在は初めて知りました。
スコットランドは奥が深いですね。

それにしても、イギリス貴族の場合、あの人は、確か、スコットランド貴族、この人は、イングランド貴族だっけ、とか覚えていないと失礼をしてしまう可能性があるということでしょうか。
結構、大変そうです。
4: Lucius (2006/05/15 00:12)
お久しぶりです。スコットランド貴族以外でLord A of Bという人の場合も、省略するときはやはりLord Bとするのが一般的なんでしょうか?
5: dzlfox (2006/05/17 09:51)
西京子様。
そこで、紳士録なり貴族録の出番があるのでしょうね。
日本でも、受領名・官途名なりを覚えるのが大変だったでしょうけど。
#そういえば今でも知らないうちに出世している人がいて、肩書きをまちがえて・・・(笑)

Lucius様
お久し振りです。
スコットランド貴族以外の場合はLord Aと略すのが普通だと思います。もっとも、Lord A of XとLord A of Yが同席していたら(同じ文脈に出てきたら)困るので、略すのはあくまで便宜上のためで略式にしか過ぎないのですが。
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