先日東京地裁の出した国籍法違憲判決がそれなりに話題になりました。その中でもポイントは「出生前に認知すれば非婚であっても日本国籍が与えられるのに、出生後の認知であるなら非婚の場合は国籍が与えられない」のが非合理、ということでした。この判決の是非はこのサイトでは論じませんが、ここと関係があるのは準正に関してのことです。
Sankei Webの記事「『非嫡出子も日本人』国籍法規定は違憲 東京地裁」に国籍法のポイントとして次のように書かれています:
【生後認知→結婚】出生後、父母が法律上の夫婦となった時点で届け出れば日本国籍が取れる(準正子)
生後認知の後、結婚するかどうかで国籍の有無が決まる、とされていたのは、その結婚によって非嫡出子が準正されるからです。
この準正というのは民法によって定められています。男女が結婚していない状況で生まれた子供は非嫡出子とされますが:
- 出生後父親が認知し、その後父母が結婚した場合 - 婚姻準正 (民法789条I)
- 出生後に父親が認知しなかったが、その後父母が結婚し、父親が認知した場合 - 婚姻準正 (民法789条II)
という条件で、準正子とされ、嫡出子とされます。(1)の場合はもちろん父母の結婚の時点で準正したとされます。(2)の場合本来法的には父親の認知の時点で準正したとされるのですが、現在の法務省見解は、父母の結婚の時点に遡って
さて、英国のように貴族の爵位やその他の世襲の称号が生きている国では、当然それらの相続にこの準正という概念が問題となってくると想像できます。どうなっているのでしょうか。
結論から言うと簡単すぎる結論になってしまいますが、イングランド法(とその後継のグレート・ブリテン法および連合王国法)では、準正子には爵位および准男爵位の相続権が認められていません。
しかしながら、それらの準正子も儀礼称号を使うことは認められているようです。それらの男子は余子としての儀礼称号を用います。女子は通常通りです。例として、
- David, Viscount Lascelles
-
m. 1st 12 Feb 1979 (divorce 1989): Margaret Rosalind;
- Emily; b 23 Nov 1975
- Benjamin; b 19 Sept 1978
- Alexander; b 13 May 1980
- Edward; b 19 Nov 1982
上記の系図を見ておわかりになるように、EmilyとBenjaminの姉弟が
この場合、生まれた順番からいえば、Benjaminが最年長の男子ですが、継嗣はAlexanderとなります。
現状では子爵の子供扱いなので、全員儀礼称号は'The Honourable'ですが、将来父親がThe Earl of Harewoodをつぐと、儀礼的にLord Lascelles (Viscount Lascelles)と称されるのは、Benjaminではなく、Alexanderとなります。このとき、Benjaminは伯爵の余子となるので、伯爵の余子としてHon. BenjaminLord Benjaminとなります。Emilyは伯爵の女子扱いなので'Lady Emily'となります。
このLascellesのケースでは、Lord Lascellesは女王陛下に「準正子がHonの儀礼称号を名乗る」旨の許諾を求めて許可されたそうです。他の例でもHonを名乗る例があるために、これは特別な措置と言うことではありません。しかし、君主に許可を求めるのが通例なのか、Lascellesが女王の身内だから特別に求めたのか(Lascellesは女王の従兄弟の子)、まだちょっとわかっていません。
さて、これは英国の貴族および准男爵位の話でしたが、王位・王族に関しても同様です。仮にHRH Prince William of Walesが結婚前に子供をつくってしまった場合、その子供は男女にかかわらずHRHの敬称とPrince/essの身分を与えられますが、王位継承からは除外されます。したがって、仮に最年長の男子として生まれてきた男子であっても、父親が登極後に'The Prince of Wales'や'The Duke of Cornwall'となることはありません。
例によって
ただし、過去に「結婚時にスコットランドに居住していない場合、爵位の相続権が認められない」という判例があったようです。これはおそらく、この「結婚による準正による相続権付与」というものがスコットランド法における結婚に基づいていたものなので、スコットランド法が適用されるべき場所に居住していないと行けない、ということなのではないか、と勝手に想像しています。
さて、こうしたことから、やはりスコットランドは異色なのだ、と思われるかもしれませんが、実はイングランドのほうが異色なのです。というのも、基本的に、フランスやドイツなどの大陸系は程度の差こそあれ準正子に相続権を認めているからです。
個人的に面白いと思うのはここなのですが、この準正という行為が西欧においては後期ローマ法に起源を発していて、あの
フランスでは王位には準正子の相続権を認められていなかったものの、貴族には認められていたそうです。ただしそうなった例はほとんどないらしい。また王位に関しては継承法が不文法だという点で曖昧であるそうな。中世ドイツではローマ法を基準にした慣習法があり、準正という行為は認められていたものの、準正子への封地の相続権および長子の権は認めないとされていました。しかし、18世紀以降の諸領邦が制定した市民法においては、準正子の相続権を認める旨が記されているようで、これらは1896年のドイツ法典にも引き継がれています。モナコでは公位の継承権も準正子に認められています。
注意すべき所として、
準正に関する語彙のメモ
- legitimation
- 準正
- legitimate
- 嫡出子
- legitimated
- 準正子
- illegitimate
- 庶出子
- out of wedlock
- 婚姻外に(で); e.g.: born out of wedlock (婚姻外に生まれた)
- in wedlock
- 婚姻中に(で)
- adultery
- 不義
- legitimatio per matrimonium subsequens
- 「後の結婚による準正(legitimation by subsequent marriage)」を意味するラテン語