[称号・名/称号]

女王陛下から招待を受けたなら… / 2009-01-25 (日)

仮に皆さんが英国人であったとします。そこでどういう繋がりでか、女王陛下からバッキンガム宮殿でのアフタヌーンパーティの招待状を受け取ったとしましょう。

話をシンプルにするために英国人としています。日本人相手では話は少し変わってくるかもしれませんので。

これはどのように扱えばよいでしょうか?

出席するときは?

欠席するときは?

Debrett's Correct Formの解説を基に考えてみましょう。(1)

我々の普通の一般的なパーティへの招待状の時、R.S.V.P "repondez s'il vous plait"(フランス語で「ご返信ください」の意)と書かれていれば、要返信なので返信することになっています。

日本の慣習と同じようなもので、出席ならば出席、欠席ならば欠席と返信すればよいわけです(そのパーティのフォーマル度合いによって差異は生じますが)。

しかし、女王陛下からの招待状は異なります。

女王陛下の「ご招待」は「命令」です。

したがって、招待状およびその返事も、「命令」であることを意識したものとなります。

女王陛下から招待状が来る場合、女王陛下からは直接招待状が来ません

あくまで、以下の3人を通して送られ、それぞれの取り扱い範囲が決まっています。

王室家政長官«Lord Steward of the Household»

公式晩餐会«State Banquet»

Lord Stewardは本来は王室の家宰を司る職で政府の一員に名を連ねていた職。現在は事実上名目のみの職であり、本来の職掌である家宰の取り締まり、王室の財政面に関しては下記の"Master of the Household"に委ねられている。しかしながら、国賓の訪問時に女王に侍ったり、公式晩餐会のゲストを女王及びエディンバラ公に紹介する役を負ったり、儀礼的な機会に重要な役を預かっている。したがって、その「重い」役どころは変わらず、宮中第一の職であり、絶えずpeerが君主自らによって任命される。現任者は第5代アバコーン公爵«The 5th Duke of Abercorn»

この職を高等国務卿«Great Officers of State»の一人で世襲職である大家令«Lord High Steward»と混同してはならない。

王室侍従長«Lord Chamberlain of the Household»

園遊会«Garden Party»、冠婚葬祭などの主要宮中行事。

Lord Chamberlainは宮中の行事を取り締まる職である。ただし、かつては非常に重要な行政職であったが、現在は日々の事務は君主附私設秘書官«Private Secretary to the Sovereign»や"Master of the Household"が実務を取り仕切るため、Lord Chamberlainはパートタイムの職となっている。現在のもっぱらの仕事は上記のような宮中行事実施の際の儀礼担当及び宮内各部署長官の調整、王室と庶民院との窓口役などである。絶えずpeerが任命され、現任者は第3代ピール伯爵«The 3rd Earl of Peel»である。

この職を高等国務卿«Great Officers of State»の一人で世襲職である式部卿«Lord Great Chamberlain»と混同してはならない。

王室家政官«Master of the Household»

バッキンガム宮殿及びその他の女王の御在所における女王主催の王室行事。

Master of the Householdは王室内の事柄を管轄する。王室の司厨、公的な催し、その他王室内の家政スタッフ等を管轄するほか、女王及び王族の御在所の訪問客に対する歓待等を管轄する。現任者はデイヴィッド・ウォーカー空軍少将«Air Vice-Marshal David Walker»

招待状の文例

さて、冒頭で仮定したバッキンガム宮殿でのアフタヌーンパーティはMaster of the Householdの管轄である。したがって、招待状はMaster of the Householdの名で出される。

その文面例は以下の通りになる (Debrett'sの文面例をこの記事の例に合わせて変更)。この文面は一例であって、実際の文の構成は異なる場合があります。

The Master of the Household
is Commanded by Her Majesty to invite
Mr and Mrs Anthony Banks
to an Afternnon Party at Backingham Palace
on Sunday, 25 January from 4 to 6.30 o'clock.

臣、王室家政官は
アンソニー・バンクス夫妻を
1月25日日曜日の4時から6時30分までの
バッキンガム宮殿でのアフタヌーンパーティに
招待するように陛下よりご命令を受けました。

ここで注目すべきは、この文面で「命令«Command»」という語が使われているわけですが、この女王陛下の使用人たるMaster of the Householdは「招待状を送る」命令を受けているわけではなく、「招待する」命令を受けているわけです。

さて、この様に使用人を通して招待という名の命令を受けた事になりますので、その返事もそれを踏まえるようにします。

招待を受ける場合の返信

基本的には「命令」を反映させた所以外は、フォーマルな返信のマナーを踏襲します。ポイントは「私(達)は」と書くのではなく、招待されている人名を用いて、誰が招待されたのかと言うことを明確にすることです。

Mr and Mrs Anthony Banks present their compliments to the Master of the Household, and have the honour to obey Her Majesty's Command to the Afternoon Party at Backingham Palace on Sunday, 25 January at 4 o'clock.

アンソニー・バンクス夫妻は王室家政官に謝意を表し、1月25日日曜日の4時にバッキンガム宮殿でのアフタヌーンパーティへ出席するようにとの陛下のご命令に従う栄誉に浴させて頂きます。

招待を断る場合の返信

女王陛下のご招待は命令ですので、出席を断る理由を明記せねばなりません。その場合、「先約があるので…」というのは命令を拒否するのに十分な理由とは見なされませんので注意が必要です。

実際の所女王陛下からの招待を断るような状況と言えば、身内が病気であるといったやむを得ない事情であることが多いでしょう。また、他のより単純な理由で出席したくないという場合でも、そういった理由に仮託して返事することになるでしょう(別に仮病かどうかなどは調査されませんので)。

下記ではバンクス夫人の病気を理由にして辞退しています。

Mr and Mrs Anthony Banks present their compliments to the Master of the Household, and much regret that they will be unable to obey Her Majesty's Command to the Afternoon Party at Backingham Palace on Sunday, 25 January at 4 o'clock owing the illness of Mrs Banks.

アンソニー・バンクス夫妻は王室家政官に謝意を表させて頂きます。1月25日日曜日の4時にバッキンガム宮殿でのアフタヌーンパーティへ出席するようにとの陛下のご命令に対し、バンクス夫人の病気のために誠に遺憾ながら従うことが出来ません。

後の感謝の手紙

招待を受けたイベントが終わった後、感謝の手紙を送る事とされています。この場合、特に定型的な文面はないようですが、一つ重要な点としては、あくまで招待状を送ってきた人物(つまり、上記の3人のうちの誰かになるわけですが)に宛てて手紙を書き、「女王陛下に感謝の意をお伝えするように要請」するようにします。

園遊会の際の例外

女王陛下からのご招待に対する反応については基本的には上記の通りですが、園遊会«Garden Party»の時の招待に関しては例外があります。

園遊会の場合、その招待客の多さからか、Lord Chamberlainの名で送られてくる招待状(その文面については余り差異がないはずです)には入場証«admission card»が添えられており、「招待客が出席できない場合を除いて確認は必要ない」と書かれています。

したがって、以下のように対応します。

  • 出席する場合:特に返事する必要なし。当日はその入場証を持参する。
  • 出席を辞退する場合: 上記の作法に従い、辞退する手紙を送る。その際に必ず入場証を返却する。
  • 感謝の手紙は特に必要ないようです。

他の王族からの招待状

他の王族からの招待状も通常その王族の家宰担当者から送られてきますが、女王陛下からの招待とは異なり、王族からの招待は命令ではありません。

したがって、上記の返信の文例から「命令に従う云々」に関する語句を使わないようにして返信するようにします。もちろん返信先は、その招待状を送ってきた家宰担当者です。

実はこの記事はあまり実践では役に立ちません。そんな機会が滅多にないからです。 しかし、英国の称号システムに関連することでもあり、立憲君主制独特の要素もありますので、とりあげました。

国民が基本的に君主の臣下であるというのは(立憲政であれ、絶対政であれ、憲法にその記載があろうが無かろうが)君主制の基本事項です。

しかしながら、我々に関するポイントとしては我々は日本国民であって、英国女王陛下の臣民ではない点です。

この場合、命令云々の拘束性はどうなるのか?

日本在住のまま招待を受けた場合、英国領内に滞在中に招待を受けた場合、それぞれどのような取り扱いになるのかについては私の方では検証できていません。

  1. Debrett's Correct Form, (1999; London: Headline, 2002) 263-64.
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[称号・名/称号]

息子が襲爵した未亡人の称号についての補足 / 2006-11-23 (木)

先の『小公子』の記事で「夫が襲爵せずに死亡した後に息子が襲爵した場合、未亡人の称号は変わらない」と述べました。これについて補足したいと思います。

Titles and Forms of Addressに実例が載っています。

The 8th Duke of Devonshireは子が無かったのですが、父から襲爵したときには既に弟のLord Frederick Charles CavendishおよびLord Edward Cavendishが兄に先立って逝去してしまいました。

しかし、Lord EdwardにはVictor, Richard, Johnという3人の男子がいました。そこで、Mr Victor Cavendishがheir presumptiveとなりました。

このとき、彼は跡継ぎとはいっても第8代公爵の孫ではなく甥にすぎないので、儀礼称号はありませんでした。もちろん彼の弟も同様です。しかし、Victorが1908年に襲爵すると、彼の弟もLord RichardおよびLord Johnと称されるようになりました。しかしながら、彼の母親、つまり故Lord Edwardの妻の儀礼称号は変わらずLady Edward Cavendishでした(p.6)。

補足しつつ纏めると、以下のようになります。

  1. 傍系から跡を継ぐと、その弟および姉妹も彼の父親がまるでその爵位を持っていたかのように儀礼称号及び地位を得る。
  2. 上記の儀礼称号及び地位は自動的に権利として得るものではなく、君主の許しを得て与えられるものであり、内務相の推薦により君主がwarrantを発行して認可する。
  3. 上記の場合でも母親の儀礼称号は変わることがない。
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[称号・名/称号]

『小公子』におけるセディの称号について再考察および訂正 / 2006-11-20 (月)

以前サウスアイランド公爵殿下の記事での疑問に答える形で『小公子』についての記事を書きました。

私は当時得ていた知識の中でそれを考察したのですが、一箇所大きく間違っていたと後の判明箇所がありましたので、個々で訂正の上お詫びさせていただきます。

さて、その記事中で取り上げた疑問点は大きく分けて以下のものです。

  1. セディの称号であるLord Fauntleroyとは何か?

  2. セディの父親はThe Earl of Drincourtの三男であるのに、なぜThe HonをつけずにCapt. Cedric ErrolもしくはMr Cedric Errolと呼ばれるのか?

  3. セディの母親はセディの襲爵後になんと称されるのか

これに対し私は以下のように考察し回答しました。

  1. Lord FauntleroyとはThe Earl of Drincourtの副次的称号であり、法定推定相続人である継嗣が帯びる儀礼称号である。セディはThe Earl of Drincourtの三男の子であり、父親が襲爵していないので、The Earl of Drincourtの継嗣の称号であるLord Fauntleroyを儀礼称号とは用いない。伯爵の三男の子はあくまで'Mr'にすぎない。したがって、著者のミスである

  2. 伯爵の余子が帯びる儀礼称号であるThe Honは宛書ぐらいにしか用いない。軍にいる人ならば軍の階級でよばれるだろうし、Mrでも呼ばれうるだろう。もとの記事では暗にしか書いてないですが、しかも移住先がアメリカだし。勘当云々は儀礼称号には関係が無い。

  3. セディの母親は夫が襲爵していないので、あくまで伯爵の三男の妻としての儀礼称号しかない。ただし、社交界で何がしかの称号(たとえばMadam Errolとか)で呼ばれる可能性はある。きっちりと決まっているように見えて結構実社会は柔軟なので。

さて、2番目と3番目は合っているのですが、1番目につきましては著者のFrances Hodgson Burnett女史が正しいということがわかりました。

'伯爵の三男の子'であるセディがMrで称されるに過ぎないというのは正解です。

しかし、彼は二人の伯父がなくなった後(既に父親は先に他界)、'伯爵の三男の子である伯爵位の継嗣'となりました。

前回執筆時点での知識では、この場合でも伯爵との続柄(孫)が変化しないと考え、上記のような結論となりました。しかしながら、よく考えてみると伯爵の子が全員逝去した事によってセディの立場は伯爵の直系継嗣である孫に変化した事になります。

この場合、この孫は継嗣が帯びるべき儀礼称号を帯びるようです(Debrett's Correct Form)。

われらがDebrett'sに、孫が継嗣となった場合に継嗣が帯びるべき儀礼称号を帯びる例が載っています。

1955年にViscount SwintonがEarl of Swintonに授爵された。彼の子たる男子the Hon John Cunliffe-Listerは怪我の為に男子を残して1943年に逝去していた。伯爵の授爵の際にそのうちの長男(現スウィントン伯爵)が祖父の継嗣となり、儀礼的にLord Mashamとして知られるようになった。

やや事情が異なっていますが、セディの場合にも当てはまると思います。やはり直系の孫たる継嗣はheir apparentですから、ちゃんと区別しておくべきなのでしょう。この孫に子がいた場合もおそらくその儀礼爵位に即した儀礼称号を帯びると思われます。

ただし、Debrett'sによるとこのケースが当てはまるのは公爵、侯爵、伯爵のみであり、子爵及び男爵の孫がその継嗣となった場合にはThe Honourableとはならないとのことです。

もちろんそもそもこの話はheir apparentに限った話です。

したがって、セディは二人の伯父が生存中は'Mr Errol'であり、伯父が両方とも逝去した瞬間に'Lord Fauntleroy'と称されることになる、というのが今回の私の結論です。もちろん、社会的にはその伯父の葬式後にそのように呼ばれるでしょうけども。

また伯爵の長男と結婚したと称する女性がその間の子供という男子とともに現れたとき、彼もLord Fauntleroyと称していましたが、これも上記に当てはまると思います。

これをもって、先の記事の内容を上書きしたいと思います。ご迷惑をかけ大変申し訳ございませんでした。また、Frances Hodgson Burnett女史並びに御子孫の方、改めてお詫び申し上げます。

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[称号・名/称号]

英国Princeの'The'メモ / 2006-11-16 (木)

l.aquarius氏(Lucius氏と書いた方が良いでしょうか)からトラックバックを頂きました。

英国のPrinceの称号における'The'についてです。引用が長くなると気が引けるのですが、上手くカット・編集する能力に欠けているためですので、ご容赦下さい。

あらためて王族の称号(爵位がない場合)について調べてみると、君主の子は'HRH The Prince/ss'、男系の孫は'HRH Prince/ss'、男系の曾孫は'Lord/Lady'と、君主から一代離れるごとに微妙に格が下がっていくんですね。孫に'The'が付かないのは、今回調べて初めて気づきました。

..................

貴族の儀礼称号で'The'が欠けているのは、'The'が敬称を略したものであることから、本人が有爵者ではないことを反映しているとして、王族の称号で'The'が欠けているのはどういう意味を表しているのでしょう。貴族の儀礼称号と違って、君主の孫は本人がPrinceのtitleを持っているはずですし……。

さて、実はこれについては私も以前調べたことがあるのですが、明確に示すような記事等は無かったものの、基本的にはやはり格の違いを示しているものです。

では、この'The'は何かの略か。

おそらくそうではなく、実際に君主の子である、ということを示す英語的な'The'です。実は王族のPrinceもTitular Dignity of Princeといって一種の儀礼称号なのですが、その中でも「君主の事孫とは違うぞ」という意味で'The'をつけているようです。ただし、どうもこれは近現代の慣習のようです(ソースなし。どこかで読んだ気がするが)。

以下は蛇足です。

  • HRH The Prince Charles of Great Britain

という人がいた場合、これはあくまで:

  • HRH Charles, The Prince of Great Britain

の簡略形です(Great Britain以降略)。

この人がPrince of Walesの場合:

  • HRH The Prince Charles of Great Britain, The Prince of Wales
  • HRH Charles, The Prince of Great Britain, The Prince of Wales

となります。

ただし、一般的に'The'は省きます。また、家系図などでは省く傾向があります。

また、上記Prince of Walesの人の子は:

  • HRH Prince Wlliam of Wales, Prince of Great Britain
  • HRH William of Wales, Prince of Great Britain

となります。

この人たちの場合、家の号(仮にそう呼んどきますが'of Wales'とか'of York'とか)があるので、混乱を避けるためもあるのかもしれません。

あんまり疑問の解決になってないなぁ。まぁメモだしこれで堪忍してください。

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[称号・名/称号]

Re: 「伯爵+子爵、公爵+伯爵+男爵」 Memoranda / 2006-11-15 (水)

l.aquarius氏が同氏のブログMemorandaの記事「伯爵+子爵、公爵+伯爵+男爵」で、英国元首相に対する授爵の考察の続きとして、爵位の組み合わせを考えていらっしゃいます。

先ごろ結婚したエドワード王子(HRH The Earl of Wessex)の場合も、伯爵と一緒に子爵(Viscount Severn)を授爵しています。とはいえ、娘一人しかいないので、Viscount Severnを名乗る人は今のところいませんが。

継嗣の儀礼称号に関するこの記述ですが、若干問題があります。

慣習として。儀礼称号を帯びるべき人が王族であった場合、儀礼称号を帯びません。

HRH the Earl of Wessexは女王の子であり、その子も女王の孫として王族となるので、仮に男子が産まれてもViscount Severnとはと原則的にはなりません。ただし、同殿下の娘であるPrincess LouiseをLady Louiseと呼ぶことにしたように、王族であってもViscounr (Lord) Severnと名乗る選択をする可能性が大いにありますが、これはまた別の話です。

ヨーク家でも同様に、HRH the Duke of Yorkに男子が産まれてもEarl of Invernessとは通常称されません。

しかし、HRH the 2nd Duke of Gloucesterの継嗣は王族ではなくなるので(ジョージ五世の曾孫にあたる)、その二番目の爵位であるEarl of Ulsterを称します。ケント家も事情は同じでHRH the 2nd Duke of Kentの継嗣はEarl of St. Andrews、その継嗣はBaron Downpatrickと称されます。

したがって、ヨークもウェセックスも3世以降は儀礼称号を名乗りますが、現状では男子が産まれても帯びないことになります。

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[称号・名/称号]

肩書きの略称メモ / 2006-11-13 (月)

この記事は最初ワールドカップ頃に書きあげようと思っていたものですが、大幅に遅れ、暫時書き足してやっとここまで来たものです。下記リストの完全性も確かなものではないのでメモとします。あくまで参考程度にして下さい。いずれ書き足すときも来るかと思います。

英国人の訃報記事などを見ていると、様々な肩書きの略称が出てきます。たとえば、KGはKnight of the Garter (ガーター騎士)、JPがJustice of Peace (治安判事)の略です。こういった肩書きの略称を英語では大抵Letters after the NameとかPost Nominal Letters(略してLetters)と呼びます。そのまま、ですね。

実は、このLettersは書く順番が決まっています。だいたい大まかにその種類によって順番が決まり、そのカテゴリーの中でもだいたいの順位があります。ここではそのことを少し解説します。

  • Bt(baronet;准男爵)もしくはEsq(Esquire;エスクワイア)がある場合、まず最初に名前のすぐあとに置きます。
  1. 英国君主によって叙された栄典(勲章等)

    下のリスト中の記号について:

    • #:Blackには記載があるがDebrett'sには無いもの
    • *:Debrett'sにはあるが、Blackには無いもの

    Debrett'sに無いものは、おそらく現有者がいない関係で省いているのではないかと思います。

    1. VC (Victoria Cross)
    2. GC (George Cross)
    3. KG (Knight of the Garter)
    4. KT (Knight of the Thistle)
    5. KP (Knight of Saint Patrick)#
    6. GCB (Knight Grand Cross of the Order of the Bath)
    7. OM (Order of Merit)
    8. GCSI (Knight Grand Commander of the Order of the Star of India)
    9. GCMG (Knight Grand Cross of the Order of St Michael and St George)
    10. GCIE (Knight Grand Commander of the Order of the Indian Empire
    11. CI (Imperial Order of the Crown of India)#
    12. GCVO (Knight Grand Cross of the Royal Victorian Order)
    13. GBE (Knight Grand Cross of the Order of the British Empire)
    14. CH (Companion of Honour)
    15. KCB (Knight Commander of the Order of the Bath)
    16. KCSI (Knight Commander of the Star of India)
    17. KCMG (Knight Commander of the Order of St Michael and St George)
    18. KCIE (Knight Commander of the Indian Empire)
    19. KCVO (Knight Commander of the Royal Victorian Order)
    20. KBE (Knight Commander of the Order of the British Empire)
    21. CB (Companion of the Order of the Bath)
    22. CSI (Companion of the Order of the Star of India)
    23. CMG (Companion of the Order of St Michael and St George)
    24. CIE (Companion of the Indian Empire)
    25. CVO (Commander of the Royal Victorian Order)
    26. CBE (Commander of the British Empire)
    27. DSO (Distinguished Service Order)
    28. LVO (Lieutenant of the Royal Victorian Order)
    29. OBE (Officer of the Order of the British Empire)
    30. ISO (Imperial Service Order)
    31. MVO (Member of the Royal Victorian Order)
    32. MBE (Member of the Order of the British Empire)
    33. RRC (Royal Red Cross)#
    34. DSC (Distinguished Service Order)
    35. MC (Military Cross)
    36. DFC (Distinguished Flying Cross)
    37. AFC (Air Force Cross)
    38. ARRC (Associate, Royal Red Cross)#
    39. AM (Albert Medal)#
    40. DCM (Distinguished Conduct Medal)
    41. CGM (Conspicuous Gallantry Medal)
    42. GM (George Medal)
    43. DSM (Distinguished Service Medal)
    44. MM (Military Medal)
    45. DFM (Distinguished Flying Medal)
    46. AFM (Air Force Medal)
    47. SGM (Medal for Saving Life at Sea)
    48. CPM (Colonial Police Medal for Gallantry)
    49. KGM/QGM (King's/Queen's Gallantry Medal)
    50. BEM (British Empire Medal)#
    51. KPM/QPM (King's/Queen's Police Medal)
    52. KPFSM/QFSM (King's Police and Fire Service Medal/Queen's Fire Service Medal)*
    53. VD (Volunteer Officer's Decoration)#
    54. ERD (Army Emergency Reserve Decoration)
    55. TD (Territorial Decoration)
    56. ED (Efficieny Decoration)
    57. RD (Decoration for Officer of the Royal Naval Reserve)
    58. VRD (Royal Naval Volunteer Reserve Officer's Decoration)#
    59. AE (Air Efficiency Award)
    60. CD (Canadian Forces Decoration)*
  2. 君主もしくは君主の代理によって任命された職

    1. PC (Privy Counsellor)
    2. ADC (Aide de Camp to The Queen)
    3. QHP (Honorary Physician to The Queen)
    4. QHS (Honorary Surgeon to The Queen)
    5. QHDS (Honorary Dental Surgeon to The Queen)
    6. QHNS (Honorary Nursing Sister to The Queen)
    7. QHC (Honorary Chaplain to The Queen)
    1. QC (Queen's Counsel)
    2. JP (Justice of the Peace)
    3. DL (Deputy Lieutenant)
  3. 大学の学位

    PhD, MPhil等

  4. 修道会

    キリスト教の修道会に属している人はその略称が付される。ただし、イエズス会(Society of Jesus)の場合SJが付されるが、ベネディクト会の場合OSBを使わない人がいるなど、各修道会によっていろいろ用い方がある。'Dom'や'Dame'を用いると十分と考えられている(Debrett's, 91)。

  5. 医学資格(大学の学位以外)

    以下詳細は省略します。

  6. 学会フェロー(FRS, FSA, FRSE, FRSL, FBA)
  7. 王立芸術院 Royal Academy of Arts, Royal Scottish Academy

    PRA, PPRA, PRSA, PPRSA, RA, RSA, ARA, ARASA

  8. 職能団体フェロー、メンバー

    たとえば、35団体からなるEngineering Councilの公認技術者«chartered engineer»: CEngプラス所属する団体の略号をメンバーシップにあわせて書く。

  9. Writers to the Signet

    元々スコットランドの玉爾に携わった人達だが、今ではスコットランドの事務弁護士«solicitor»を指す。ここではその私設団体であるThe Society of Writers to Her Majesty’s Signetのメンバー。略称WS

  10. 議会議員(MP)および他の職 MLA, MLC CC
  11. 所属の軍隊(RN, RAF, RM)

さて、ここで注意すべき点です。

  1. 勲章で下位のものを持っている人が同じ勲章の上位のものをもらった場合、上位のものだけ記します。ただし、異なる勲章をもらった場合併記します。
  2. こういう略称はかなりフォーマルな記述法であり、出席者リスト等でしか用いられません。名刺にも用いません。したがって、口語では用いませんし、手紙の書き出しでも用いません。

    したがって: Dear Sir Anthony Acland, KGといったような書き方はしません。

  3. 上記の様々なものを併記するのもいろいろ細かい話があるのですが、ここでは省略します。
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[称号・名/称号]

ベッカム夫人のLadyの使い方に関するInternet Jouneyのツッコミへのツッコミ / 2006-11-05 (日)

Internet JourneyのUK Todayの記事「11/3 イングランド代表チーム元キャプテン、デヴィッド・ベッカムに「Sir」の称号!?」で、デイヴィッド・ベッカムにたいするないとのじゅしょにかんする噂が取り上げられていました。ネタ元はDaily Mailの記事'More knighthood speculation for Beckham.'と思われる。

さて、この記事中に注目すべき点がいくつかある。

Knightのことを括弧して子爵と書いてあるのがわかる。一般的に子爵の訳語にあてられるのはViscountである。しかし、この場合は誤訳もしくは勘違いというよりも、Knightの訳とされることがしばしばある士爵の誤変換であろう。この士爵という訳語は、公爵から准男爵と続く「~爵」というパターンを踏襲させるための訳語であろう。ただし、騎士やナイト爵という訳語に比べると、不便な訳であるためか見る機会は少ないように思われる。公爵と侯爵が同音で混乱を来すところに、子爵と士爵も同音となれば余計にややこしくなるからだ。

しかし、この記事で最も問題なのはベッカム夫人の発言に対するツッコミである。

記事でも書かれているとおりベッカム夫人は「レイディ・ヴィクトリアと呼ばれることになるなんて信じられなーい」と舞い上がっている。

これに対してInternet Journeyは

※「レイディ」の称号をファースト・ネームと共に用いるのは世襲貴族の子女のみであり、一代貴族であるナイトの夫人の場合は「レイディ・ベッカム」というように、苗字とともに用いるので、ヴィクトリア夫人の引用は誤り。

と文末中で突っ込んでいる。

確かにベッカム夫人は夫がナイトになってもレイディ・ヴィクトリアにはならず、レイディ・ベッカムとなる。これは英国人でもよく犯す間違いである。

しかしながらこのツッコミは根本的に誤解を生む要素を多分にはらんでいる。

この書き方では「世襲貴族」と「一代貴族」という分け方で'Lady+Forename (Surname)'と'Lady+Surname'の区別の説明をしようとしている。しかしこれがそもそも間違いである。

そもそもナイトは「貴族」ではない。peerという意味でもnobleという意味でも英国法では貴族ではない。

さらに「一代貴族」という日本語は'life peer'という用語の訳として通常用いられるが、この用語はKnightを指すものではない。あくまで所謂五等爵の爵位であるにもかかわらず「世襲ではなく一代限り」という制限規定がある爵位・貴族を指す語である。

このことを念頭に置いた上で、上記の記述を直すと以下のようになる。

  1. 'Lady+Forename (Surname)'という形をとるのは、世襲貴族・一代貴族に関わらず公爵・侯爵・伯爵の女子のみである。
  2. 世襲であっても子爵・男爵の女子は'Lady+Forename'ではなく'The Honnourable Forename Surname'である。
  3. 一代貴族として授爵されても、公爵・侯爵・伯爵であればその女子は'Lady+Forename (Surname)'と称される。(一代貴族はその相続に関して「一代限り」という制限を受けるが、儀礼称号に関しては通常の世襲貴族のそれと何ら変わることがない。)
  4. 一代貴族は現代ではほとんど男爵であるが、伯爵の可能性もあり得る。もちろん歴史上は公爵の一代貴族もあった。
  5. 'Lady+Surname'となるのは准男爵夫人(つまりこれは世襲の称号)及びナイト夫人である。

所謂五等爵でも一部の伯爵及び多くの子爵・男爵の場合爵位が姓となっているものがあり、その場合は'Lady+Surname'となるが、これは有る意味また別の話である。

このように、Internet Journeyのツッコミはツッコミとして不完全である。Daily Mailの原文では、Kristina Pedersen女史がしっかり'...as only the daughters of dukes, marquesses and earls are called by their first names.'と限定している。おそらくInternet Journey編集部もしくはUK Todayの記事を書いている記者が、より分かりやすくしようとして失敗したものであろう。称号に関する話題に於いてよくある話ではある。

17/11/2006:Internet Journeyのドメイン変更にあわせて本文中のアンカーを修正しました。

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[称号・名/称号]

英国における高位聖職者の敬称に関するメモ / 2006-06-10 (土)

殿下の記事を受けて「英国における」高位聖職者の敬称・呼称を簡単にメモします。

下記の敬称・呼称の欄ですが、それぞれ上から:

  1. 封書などの宛書
  2. 口頭での呼びかけ
  3. 会話での言及

となります。スラッシュで区切っている場合、左側がフォーマル、右側がソーシャルな用法です。「もしくは」としている場合は文字通り「もしくは」です。省略できる部分は括弧()で囲ってあります。特に指定がない限り、Debrett's Correct Formを参照しています。そのほかのそれぞれ説明を付け足してますので参照して下さい。

イングランド国教会/アングリカン・コミュニオン

イングランドでは所謂英国国教会«The Church of England»が国教ですが、実は現代では訳としてイングランド国教会という方がどちらかと言えば正確で(というよりややこしくない)、現代ではイングランド国教会はイングランドのみに権限があります。その他の地域の国教会系はカンタベリー大主教をリーダー的に仰いでいますが、基本的に独立した権限があり、カンタベリーの意のままにはなりません。この緩やかな連合自体の事をアングリカン・コミュニオンといいます。

英国には、イングランド国教会«the Church of England»アイルランド教会«The Church of Ireland»ウェイルズ教会«The Church in Wales»スコットランド教会«The Church of Scotland»がありますが、国教なのはイングランドだけで、他はそれぞれ、1869年、1920年、1920年に非国教化されました。

このうち長老制のスコットランド協会は制度が違いすぎるのでここでは省き、他の3教会の高位聖職者について書くことにします。

聖公会という訳はここではあえて使っていません。

カンタベリー/ヨーク大主教 - Archibishop of Canterbury/York

ぞれぞれ、Primate of All England and MetropolitanとPrimate of England and Metropolitanという地位の違いはあれど、敬称・呼称は同じです。

  1. The Most Reverend and Right Honourable the Lord Archbishop of Canterbury/York
  2. Your Grace / Archbishop
  3. The Archbishop (of Canterbury/York)
ロンドン主教

ロンドンの主教は枢密院議員だそうですので、それに沿った敬称・呼称となります。

  1. The Right Reverend and Right Honourable the Lord Bishop of London
  2. Bishop
  3. The Bishop (of London)
アイルランド教会およびその他のアングリカン・コミュニオンの大主教

アイルランド教会にはアーマー大主教(Primate of all Ireland)とダブリン大主教(Primate of Ireland)がいます。おそらくウェイルズ教会のウェイルズ大主教も同じ敬称のはずです。

  1. The Most Reverend the Lord Archbishop of Armagh/Dublin/Wales etc...
  2. Your Grace / Archbishop
  3. The Archbishop of Armagh/Dublin/Wales etc...

ただし、Titles and Forms of Address. 12th ed. (London: Black, 1997)ではアルマー大主教についてはPrimate of all Irelandなので、その宛書は:

  • The Most Reverend His Grace the Lord Primate of All Ireland

とすることが書いてあります(82)。Debrett'sの方に書いていない事を見ると、後者で書く場合もある、という程度かもしれませんが。

主教 - Bishop

イングランド国教会、ウェイルズ教会、およびアイルランド教会(ミース主教以外)の主教は以下のようになります。

  1. The Right Reverend (the Lord) Bishop of 主教区
  2. Bishop
  3. The Bishop (of 主教区)

アイルランドのミース主教«Bishop of Meath»はPremier Bishop of Church of Irelandなので上記のThe Right ReverendのかわりにThe Most Reverendを用います (Debrett's, 223)。

ローマ・カトリックの高位聖職者

まず注意しなければならないのは、連合王国ではローマ・カトリックの大司教・司教などの場合、「何処何処大司教」の「何処何処」といった地名をつける方式は公的に且つ法的に認められたものではありません。

したがって、公式な文書や法的な文書では用いられません。以下では英国での公式文書で用いられているものを「公式」として記します。

もっとも、これは英国における公式な場における話で、カトリックのコミュニティや個人的なやり取りの場合には関係ありません。

教皇 The Pope
  1. His Holiness the Pope
  2. Your Holiness
  3. His Holiness / The Pope
枢機卿 Cardinal
    • 大司教の場合: His Eminence the Cardinal Archbishop of 大司教区名
    • 司教の場合: His Eminence the Cardinal Bishop of 司教区名
    • 大司教・司教ではない場合:His Eminence Cardinal 姓
    • [公式]: His Eminence Cardinal 姓
  1. Your Eminence / Cardinal (姓)
  2. His Eminence / Cardinal (姓)
大司教 - Archbishop
    • His Grace Archbishop of 大司教区
    • [公式]: The Most Reverend Archbishop 姓
  1. Your Grace / Archbishop
  2. His Grace / The Archbishop (of 大司教区)

Black版によると、宛書には:

  • The Most Reverend 名+姓 Archbishop of 大司教区

という表現も載っています。また、それを受けてカトリックのアーマー大司教およびダブリン大司教の宛書を:

  • The Most Reverend 名+姓 Archbishop of Armagh and Primate of All Ireland
  • The Most Reverend 名+姓 Archbishop of Dublin and Primate of Ireland

と称する方式も紹介しています(100)。

司教 - Bishop
カトリックの場合司教も同じく公式には司教区名をつけません。もし仮に司教区をつける場合、同名の主教区がアングリカンにあれば、'Roman Catholic Bishop of PN'とすべきだそうです (Debrett's, 243)。
    • His Lordship the Bishop of 司教区 もしくは The Right Reverend 名+姓, Bishop of 司教区
    • [公式]: The Right Reverend Bishop 姓
  1. My Lord (Bishop) / Bishop
  2. His Lordship / The Bishop

アイルランドの司教の場合、上記のThe Right ReverendのかわりにThe Most Reverendを用います。また、博士号を持つ人の場合、The Most Reverendと名+姓の間に'Dr'を入れるようです(Debrett's, 244)。

他にもいろいろ書こうと思っていたのですが、今度の機会にとっておき今回はやめておきます。考えられる日本語訳も書こうと思っていましたが、やめときました。

  • 初版:2006-06-10T01:57:00+09:00
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