[称号・名/姓・氏・名]

2004年改正のフランス姓氏制度についてのメモ / 2006-05-09 (火)

すでに2年前の話ですが、2004年1月からフランスで姓氏制度の改正が行われ、「姓」のシステムが若干変更され、nom de famille(英語で言うfamily name)が導入されました。日本語では、家名なり家族名なりの訳語となるでしょうが、苗字でもいいかもしれません。«»のほうがいいのかも知れませんが、ちょっと違うような気がします。 例によってa.t.r.のVelde氏のポストを元に見てみます。

ここで、'nom de famille'などという語・制度は前からあったのでは、と思われる向きもあるかもしれません。確かに、一般的にはpatronyme(「父系名」所謂「姓」ですね)を'nom de famille'といっていましたが、これは法定用語ではありませんでした。そこで、今回改めて新制度のためにこの名称が正式に用いられたことになります。混乱を避けるために違う名称を選択したほうが良いようにも思うのですけども…。

さて、変更になった内容ですが、両親が子供の苗字を決める際に父親の苗字と母親の苗字のほかにその両者を組み合わせたものを使えることができるようになりました。その場合、-- ハイフォン二つでつなげます。

この制度に伴い、従前のpartonymeにかえて'nom de famille'という概念が作られました。つまり、両親は、その間に出来た子供らの苗字を一度だけ選択する事が出来ます。ここで重要なのは、子供ごとにつけられるのではなく、その両親の子供全員の'nom de famille'を一度につけるということです。

選択できる'nom de famille'は先述の通り、父親の苗字、母親の苗字、両方のダブル・ハイフンによる組み合わせ、です。ダブル・ハイフォンによる組み合わせ(以下面倒なので、勝手にダブル・ハイフンドと呼ぶ)、は父母どちらの苗字が先になってもかまいません。

また、ダブル・ハイフンドにするのは、二つの姓のみです。所謂多重姓のように三つ四つ繋げることは出来ません。したがって、両親がすでにダブル・ハイフンを有していた場合、それぞれ分割した状態で、父--母を組み合わせます。当然、両親のどちらかの名前も引き継げます。

つまり、両親がそれぞれ、Bernard--ComasおよびPetit--Rousseau という'nom de famille'だったとすると、その子供らの'nom de famille'は以下のうちのどれかになります。

  1. Bernard
  2. Comas
  3. Petit
  4. Rousseau
  5. Bernard--Comas
  6. Bernard--Petit
  7. Bernard--Rousseau
  8. Comas--Petit
  9. Comas--Rousseau
  10. Petit--Bernard
  11. Petit--Comas
  12. Petit--Rousseau
  13. Rousseau--Bernard
  14. Rousseau--Comas

ただし気をつけなければいけないのは、フランスにはすでに'-'(シングル・ハイフン)や'de'などを用いた多重姓があるということです。これらの扱いはどうなるのかというと、これはダブル・ハイフンドのものとは別個に扱われます。つまり両親がこれらの多重姓を持っている場合の子供ダブル・ハイフンドの組み合わせは、そもそも多重姓自体が二つのばらばらの苗字としてではなく、くっついている一つの苗字として扱われます。あー、説明下手で申し訳ないですが。

したがって、Velde氏のポストの例をとれば、Durand de Lafargeという多重姓を持つ父とMartin-Duchampという多重姓の母の子供の'nom de famille'の組み合わせ例は:

  • Durand de Lafarge--Martin-Duchamp
  • Martin-Duchamp--Durand de Lafarge

であり、Durand--DuchampやMartin-Lafargeといったような組み合わせにはなりません。

つまり、逆に言えば、このダブル・ハイフンドの表記は従前の多重姓と区別するためにそうなっているともいえます。見やすいかどうかは別にして。

移行措置として、2004年1月時点で13歳以下の子を持つ親で、その子が親の一方の苗字しか有していない場合は、もう一方のほうをダブル・ハイフンで加える事ができるようです。

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[称号・名/姓・氏・名]

チャールズ王子改名問題 / 2006-01-24 (火)

2005年の12月ですが、Yahooなどのニュースが英タイムズの記事として、チャールズ皇太子が即位後ジョージ七世へと改名する決意をした、といったような記事を配信していました。

これに関して、英国系のブログ(例えばいつもお世話になっている『旬のイギリス』さん)やブログブルク公国のような称号系のブログ・サイトを少し眺めていましたところ、色んな意見がありました。

たとえば、チャールズという名前は縁起が悪いからジョージへと変える、といった配信記事にも出ていた理由について述べる物。また、ダイアナ/カミラとの醜聞の印象を和らげる目的では、とするもの。こういったことが大抵述べられていたように思います。

当ブログは称号や・名前を扱うところなので、この問題もまとめておきたいと思います。まず、理由の詮索の前に、英国国王の名について改めてまとめたいと思います(以前どこかで書いてます)が、それよりも先に一つ確認しておくことがあります。

今回タイムズが記事にしたようなことは何も珍しくないのです。ロイヤリストの間ではジョージ七世待望論がずっとありましたし、あるロイヤル・ウォッチャーによると、この「決断した」というきじ自体が何も目新しい物ではなく、ほぼ同様の「関係者の証言」とともに何回もニュースになっているとのことです。

要するに今まで何度もいわばゴシップ風の特ダネとして取り上げられた物をタイムズが載せたわけで、タイムズ・ブランドに日本のメディアも乗っかったという程度の物ではなかったのでしょうか。

それはさておき、まず英国王の国王としての名前(これを統治名といいます)について見ていきましょう。 英国王の統治名には以下のことが言えます。

  1. 欧州の慣習では基本的に君主の統治名は何でも良い
  2. 英国の慣習では君主の統治名はforenameすなわち名よりとる(スコットランドで一度例外有り)。
  3. 英国の王族はハノーヴァー朝以降複数のforenameを有している。
  4. 英国君主の統治名は、即位後に議会・内閣によらず君主自らが選択し決定する。

さて、われらがチャールズ王子が即位して統治名を決める段になったと仮定しましょう。

チャールズ王子の本名はCharles Philip Arthur Georgeです。したがって、それぞれチャールズ三世、フィリップ二世、アーサー(一世)、ジョージ七世という選択肢があることになります。

これから見てもわかるように、チャールズ王子はそもそもジョージという名を持っているので、厳密に言うと仮に即位前に「今日からジョージ王子と呼んでくれ」といっても改名ではありません。ようは一般に知られている名前を変更するだけということになります。この「一般に知られている名前」をprincipal nameとかprimary nameとか言う事があり、私はこれを主要名と呼んでいます。ただ、まぁ、主要名の変更のことをさして改名というのも厳密に言えば意味が違うといえでも、許容範囲だろうなぁ、とも思っています。

即位以前に主要名を変えた例としてはヴィクトリア女王があります。彼女はPrincess Alexandrina Victoriaで初期はPricness Alexandrinaと呼ばれていましたが、Princess Victoriaへ変更しました。

ドイツなどでは二つの名前をくっつけて用いる場合がありますが(フリードリヒ・ヴィルヘルム等)、あまり英国的ではないので英国国王ではありません。王族の主要名としてはあります。

さて、チャールズ王子が即位以前はチャールズ王子のままで押し通したものの、エリザベス二世女王陛下の崩御を受けて即位なさったとします。今回の報道が言っているのはこの時点で「ジョージ七世」を選ぶということです。

まず、母君のときのエピソードから見ましょう。

父王ジョージ六世が急死なされたときアフリカ訪問中だったエリザベス王女は急遽帰国します。父王の崩御を受けて即位した新女王は時の首相から「どのような名前で御統治なさいますか」との質問を受けました。 そのとき女王は以下のように御答えになったとされています。

Elizabeth. I am Elizabeth.

これによって新女王の統治名はエリザベス二世となったということです。枢密院による即位宣言(Proclamation of Ascension)に統治名を含む正式な称号が書かれます。

今回の報道や予てから言われているように「ジョージ」が有力な理由は何でしょうか?

  1. ジョージとは祖父ジョージ六世、曾祖父ジョージ五世と同じ名である。
  2. チャールズよりもジョージのほうがサクソ・コウバーグ・ゴタらしい名前である。
  3. チャールズはあまり縁起が良くない。

まずこれらが理由といってもいいでしょう。 このうち、一番目と二番目は関係がありますし、二番目と三番目は関係があります。

一番目の理由は一部報道にも載っていたように思いますが、偉大なる曾祖父、祖父の名を継ぐということです。これはいまいち感覚としてわかりにくいかもしれません。いわば験担ぎの一種な訳ですが、ジョージ六世もそもそも五世の安定の時代を目指してジョージを選んだ経緯もあり、よくわかる理由でもあります。ロイヤリストもたいていこの理由でしょう。

君主制が揺らいでいる現在、立憲君主の模範たる二人の偉大なる先祖の理念を継ぐということは十分な理由といえるでしょう。これは後醍醐天皇が、醍醐天皇の治世を理想として、追号の遺詔にも醍醐の後加号を指定したことと同種の行動と考えられるでしょう。

二番目に関しては、ジョージという名の性質もあるでしょう。聖ジョージがイングランドの守護聖人であるにもかかわらず、実はジョージという名前自体はハノーヴァー朝以前はイングランドではポピュラーではありませんでした。聖ジョージが熱狂的に崇敬されたのが主にドイツだったこともあって、元々ドイツ的な名前なのです。ハノーヴァー朝の国王に4人ジョージがいることからもそのドイツっぷりがわかるかもしれません。

もっとも、ジョージ一世の登極より300年弱たっているわけで。ジョージという名自体も英国にとっこんできています。ドイツ系のサクス・コウバーク・ゴタ朝君主の名前としてはそれでもやはりある意味もっともなことですし、先に述べたように五世、六世が出現したことで同朝を象徴した名前となったのです。ここで重要なのは、ハノーヴァー初期はともかく、今やジョージという名は英国でも良く見かけ、数人の国王を輩出した今となってはジョージという名が英国国王の名としても普通になっている、という点です。アーサー(他にも先代ジョージのアルバート等)が避けられるのは英国国王的ではないという理由ですが、すでにジョージはこの縛りを脱しているのです。

最後の縁起が悪いという点。確かにチャールズ一世は処刑された国王ですし、縁起が悪いという点もあるでしょう。少なくともわざわざ積極的に選ぶ必要もないでしょう。しかし、ここでも単に縁起が悪い、というだけでなくそもそもチャールズという名の国王は サクス・コウバーグ・ゴータ的ではない、というものの方が割合が大きいように思われます。

以上駆け足で見てきましたが、これからわかるように、今更わざわざダイアナと結び付けて大々的に騒ぐことではないような気がします。

これは蛇足かもしれませんが、あちこちで「チャールズは未だ即位する気?継承権放棄すれば?」といった内容の書き込みがありました。

改めて言っておきましょう。

英国では慣習法により継承権の放棄が出来ません。

カトリックに改宗したり、カトリックの人と結婚したりすれば継承権は喪失しますが、これとそれとは話が別なので、混同してはいけません。

更に言ってしまいますと:

英国国王は退位できません。

ではエドワード八世はどうなるのか? これは慣習法上の用語の使い方なども絡んできて非常にややこしいことになるのですが、エドワード八世は退位した状態になってはいますが、退位していませんものの、退位しています。あえてややこしい表現を使っていますが、本当にややこしいからです(笑)。

本来、この記事はもっと早く書くべき記事でしたが、多忙と・体調の都合で遅くなってしまったことをお詫び申し上げます。また、今更ながらトラックバックを遅らせていただきましたブログ各位に改めてお詫び申し上げます。

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[称号・名/姓・氏・名]

正式な英語における'Mrs' / 2004-06-03 (木)

英国の称号についていろいろ調べるときに意外と重要なのが、正式な英語における'Mrs'の取り扱いである。中学生レベルの単語ではあるが、意外に盲点な事がある。[名前]カテゴリーで考えてみよう。

結論から言うと、我々は中学校で、'Mrs'が妻の«forename» と夫の«surname»につくと習うが、正式な英語においては、Mrsは夫の姓名に付く現代英国英語では'Mr'、'Mrs'、'Dr'などの後ろにフルストップ(ピリオド)を付けない傾向がある。

例として、'Miss Toyah Wilcox'が'Mr Robert Fripp'と結婚するとしよう。すると新妻は正式な英語では'Mrs Toyah Fripp'ではなく'Mrs Robert Fripp'もしくは夫の姓について'Mrs Fripp'と呼ばれる事になる。

alt.talk.royaltyにポストされた情報によると、上の例において'Mrs Toyah Fripp'というと、正式な英語では、彼女が未亡人であるかもしれないことを示唆しているという。

このことに関してOxford English Dictionaryの'Mrs'の項を見てみると、該当する用法に当たる'2a'に1908年のNew English Dictionary (OEDの旧版)の解説を引用する形で以下のことが書かれている。

In British use the insertion of a woman's Christian name after Mrs. (as 'Mrs. Mary Smith') is rare exc. in legal documents, cheques, or the like, the normal practice when distinction is needed being to insert the husband's name (as 'Mrs. John Smith'). In the U.S. both these modes of designation are in general use.

英国の用法では、女性の洗礼名を'Mrs. Mary Smith'の様にMrs.の後にもってくることは希なことで、法律文書や小切手といった類でしか使われず、一般的な用法では'Mrs. John Smith'の様に夫の名前をもってくる。アメリカでは両方の用例が一般的に使われる。

このNEDの記述に見られるように、法律文書や小切手といった本人を明確に特定する必要があるところでしか、'Mrs + 妻の名 + 夫の姓'といった形は用いられない。

しかしながら、上の記述で注目するところは、'Mrs + 夫の姓名'という形は、1908年当時の英国で一般的であるということ。1908年というと96年前である。英国英語といえどもこの96年間により米語の影響が強まり、かつよりくだけた表現が前面に出てきている。従ってより米国的な'Mrs + 妻の名 + 夫の姓'が一般的になってきている。たとえば、ケンブリッジ大学出版局が発行する英語学習者向けの英英辞典であるCambridge Advanced Learner's DictionaryのOnline版を引いてみると:

a title used before the family name or full name of a married woman who has no other title:

  • Mrs Wood/Mrs Jean Wood

この用例に'Mrs + 妻の名 + 夫の姓'形のMrs Jean Woodが挙げられていて'Mrs + 夫の姓名'形が挙げられていないことから、後者が現代ではあまり一般的な用法ではない、ということが類推できる。オックスフォード大学出版局の同タイプの英英辞典であるOxford Advanced Learner's Dictionaryの方でも、同様の定義になっている。

しかし、このウェブのトピックである称号に関連して考えると、正式な用法である'Mrs + 夫の姓名'形を覚えていることは重要である。というのは、貴族の爵位や称号というものは、略式形であれ正式形であれ、フォーマルなものであり、妻の称号などの形はこの正式な英語のルールを基礎として成り立っているからである。

貴族や王族の称号がこの「正式な英語における'Mrs'の用法」に基づいているということは、意外に英国人にとっても盲点である。だからこそ、多くの英国人が所謂故ダイアナ元妃を指して'Princess Diana'と言う間違いを犯している。英王室史に'Princess Dianaという人物は'存在しない

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[称号・名/姓・氏・名]

参院決算委員会での民主党新緑風会の某女性議員の質問。 / 2004-03-28 (日)

まぁ、その内容の良し悪しは別にしておいて、気になったのは「夫婦別姓」という語ずっと使っていたこと。
明治時代以降の法律用語的にいえば、「小泉」や「菅」といったものは「(せい)」ではなくて「()」である。
これは、ちょっとした違いでも大たるもので、私か大まかに理解しているところでは、このややこしい概念は以下のようになる。

明治より前の用語でいえば、それぞれ「(せい)」は「氏名(うじな)」、「()」は「苗字/名字」もしくは「家名」(←後者は公家出自のものについていう)に相当する。
(せい)」すなわちかつての「氏名(うじな)」は同じ祖先を持つ、それにたぐいするものも含めて同族の集団を表す名である。
翻って「()」すなわちかつての「名字」は、大集団の中で独立した家長の元で続いていく家の名である。たとえば、二人兄弟のうち弟が分家した場合、兄弟は同じ苗字を名乗っていても、その苗字すなわち()はそれぞれ別のものである

明治までは、正式なものは「氏名」のほうであり、「(せい)」という語は「氏名」+「(かばね)」を指した。苗字はあくまで私称であって、朝廷に対するような正式な文書では姓を用いて署名した。徳川家康は朝廷に対しては「源朝臣家康」とし、諸外国に対する書状では「源家康」と署名している。また、足利義満が明に朝貢したときの署名はその号を用いて「源道義」である。

しかし、この「(せい)」の概念は、近代的な、もしくは西洋的な「()」の概念と合致せず、税制を中心とする近代法治国家の形成にとって弊害となり終えることであり、明治政府は、従来の概念を幾分保ちつつそれを西洋的に変容させた。
したがって、「(かばね)」の廃止とともに「(せい)」自体を非公式なものにし、「苗字」を「()」として正式なものとした。
民法における「夫婦は別氏とする」とはこのあたりを踏まえている。#今回は触れないが、この辺のことを理解しておかないと、「何故中国人の'surname'は結婚しても変わらないのか」といった疑問や「何故総督府は『創氏』政策を行ったのか」という問題の根本が見えてこない。

というわけで、上述の議員の質問は、質問者が質問している問題を正しく把握していない、ということがを如実に示している事になる。答弁に立った法務大臣は、ごくさりげなくではあるがその答弁の冒頭から「夫婦別氏」という語を使っていた。法務大臣だから法律用語を正しく使うのは当然だけども、聞き様によっては凄い皮肉に聞こえるところが、逆に質問者の情けなさを引きたてているように思う。

(Originally written in 08 Mar 2004; 20:24)

カテゴリーを整理した際にオリジナルのポストから日付がずれてしまいました。(Originally posted in 28th Mar 2004)

ポストの日付修正 (2004:06:03T16:48:00+09:00)

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